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プラスチック汚染とは 第4章「プラスチック生活からの脱却」

第4章「プラスチック生活からの脱却」

(1)各企業の取り組み

グリーンピースや世界1800以上のNGOなどが参加するネットワーク「break free from plastic」は、2019年に51カ国・6大陸で、計484回の清掃活動を行い、回収されたごみを企業のブランド別に仕分けしました。

その結果、コカコーラ・ネスレ・ペプシコの3社が2年連続でプラスチック汚染のトップ企業として確認されたことを明らかにしました。

※主に広範囲にわたる世界的な分布、つまりブランド監査でこれらの企業の発見が報告された国の数に従ってランク付けされています(画像参照)

このように海洋ごみ問題が世界的関心事となったいま、各企業も対策を講じ始めています。

[a] コカ・コーラ

● PETボトルをサスティナブル素材に
2030年までに、コカ・コーラのすべての製品のPETボトルの原料を「リサイクルPET樹脂」または「植物由来PET樹脂」などに切り替え、PETボトルを100%サスティナブル素材にする(PETボトル製造に新たな石油資源を使わない)という目標を掲げています。

※リサイクルPET樹脂

使用済みPETボトルを回収し、それを基に「リサイクルPET樹脂」を作成、そこから新たなPETボトルを作成する技術を「ボトルtoボトル」といいます。(「プラスチック汚染とは vol.7」参照)

● 回収
世界中の複数のNGOと手を組みプラスチック回収活動しており、2030年までに販売した自社製品と「同等量」の容器を回収する目標を掲げているとの事です。

(回収するPETボトルは自社製品のものだけでなく、他社製品も含むとの事)

[b] ネスレ

● 2019年
ネスレは2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指すと発表。

その一環として、2025年までにすべての商品の包装材をリサイクルもしくは再利用が可能な素材に切り替える目標を掲げています。

● 2020年
ネスレはプラスチックごみ対策に約2300億円を投じると発表。

2025年までに食品と接触可能な再生プラスチックを最大200万トン調達し、さらに、持続可能な包装を専門とするファンドを立ち上げ、包装分野のイノベーション・補充システム・リサイクルソリューションなどに関わるスタートアップに投資するとしています。

その結果として、バージン(新品)プラスチックの使用を3分の1減らすほか、パートナーと連携して循環型経済の推進や海や川、湖のプラスチックごみ除去にも取り組むとしています。

[c] パタゴニア

「break free from plastic」などに指摘を受け、ようやく対策を講じ出している企業が多い中「目指すのは地球の健康であり、ビジネスはその手段だ」とする考えを持つパタゴニアは「売上や利益よりも地球環境を守る」というスタンスを創業当初より一貫して貫いています。

・1993年に世界で初めてペットボトルを再生したフリースを製造(ケミカルリサイクル)

・その後もケミカルリサイクルに力を入れ続けており、現在商品の68%がリサイクル原料を用いて製造されている

・1996年より100%オーガニックコットンのみを使用

・漁網を帽子のつばに再利用(35トン分のプラスチックが海に流出するのを防いだ計算)

※「オーガニックコットン」とは、認証機関に認められた農地で、栽培に使われる農薬・肥料の厳格な基準を守って育てられた綿花のこと(普通の綿花栽培では、かなりの量の化学肥料と農薬が使われる)

※「ケミカルリサイクル」については「廃プラスチックについて 第3章:3つのリサイクル方法(2)ケミカルリサイクル」をご参照下さい

など様々な取り組みを行っています。

消費者に買い替えを促す事で利益を伸ばす企業が多い中、手入れと修理によってモノを長持ちさせることが、製作時に消費されるエネルギーや二酸化炭素の排出を削減し、地球のために最善の方法だとする理念を持って活動を行っており、注目されています。

(2)自然に還るバイオプラスチック

プラスチックの最大の問題点は、微生物による分解、いわゆる”生分解”がされないことにあります。

この問題を克服するために、すでに1970年代から、より環境への負荷が少ない”バイオプラスチック”の開発が進められています。

バイオプラスチックには、微生物によって分解される「生分解性プラスチック」と、バイオマス(植物など)から作られる「バイオマスプラスチック」があります。

[a] 生分解性プラスチック

自然界で微生物によって完全に分解されるプラスチックは「生分解性プラスチック」と呼ばれています。

(例)
● ボリ乳酸(PLA)
ポリ乳酸はトウモロコシなどデンプンを多く含んだものを原料として作られ、通常の室温環境下ではほとんど分解せず、長期間使用可能であることが特長です。

使用後は、土中などの水分と温度が適度な環境下に置くことで微生物による分解が進行し、最終的には二酸化炭素と水に完全に分解します。

● PCL(ポリカプロラクトン)
PCLは石油から人工的に作られたプラスチックですが、微生物により分解される物質です。

生分解性プラスチックは、植物から作られるものばかりではなく、PCLのように石油から作られたものもあります。

生分解性プラスチックは、プラごみ問題の解決策の一つとして期待されています。

しかし、普通のプラスチックよりも製造コストがかかります。

また「生分解される=長持ちしない」ということなので、耐久財には向いていないというデメリットもあります。

[b] バイオマスプラスチック

バイオマス(植物などから生まれた資源)を使って作られるプラスチックを「バイオマスプラスチック」といいます。

バイオマスプラスチックは、原料がバイオマスのため”環境に優しいプラスチック”として注目されています。

例えば、先ほどのポリ乳酸は微生物によって分解されるので「生分解性プラスチック」として紹介しましたが、植物から作られているので「バイオマスプラスチック」でもあります。

ただし、全てのバイオマスプラスチックがポリ乳酸のように生分解がされるわけではなく、生分解がされないバイオマスプラスチックもあります。

<メリット>
・100%石油由来のものに比べたら、石油は使用量が少ない
・燃やした時に発生する二酸化炭素量が少ない

<デメリット>
・生分解されないものもある
・生分解性があっても製品化する際に性能を高めるため、普通のプラスチックや添加剤と混合することが多いため、完全には分解されるとは限らない

(例)バイオポリカーボネート
スズキ株式会社は、植物を原料にしたプラスチック「バイオポリカーボネート」の開発に成功しました。

傷つきにくく淡い色でも変色しない事が特長で、「ハスラー」のインパネガーニッシュや「ワゴンR」のオーディオガーニッシュなど自動車内装部品で実用化し、「市村産業賞 貢献賞」を受賞している。

ただし、バイオポリカーボネートは生分解性ではないため、微生物により分解はされないようです。

ちなみに...
「バイオマス」とは生物から生まれた資源のことで「バイオ」(生物)と「マス」(まとまった量)を合わせた造語です。(化石燃料は除く)

ポリ乳酸の生成時に使用されるトウモロコシなどの他にも、森林の間伐材・家畜の排泄物・生ゴミ・食品廃棄物などさまざまなものがあります。

バイオマスプラスチック以外にも、生ごみ・排泄物などを微生物によって分解させ、発生したバイオガスを発電に使用する「バイオマス発電」なども現在注目されています。

バイオマス発電は、当然CO2を排出しますが、その原料にCO2を吸収して成長する木材などを使用していることから、全体で見れば大気中のCO2の量に影響を与えない「カーボンニュートラル」なものとされています。

※カーボンニュートラル
燃やした時のCO2の排出量を仮に「100」とします。
ただし、その植物は生まれてから燃やされるまでに光合成でCO2を「100」吸収しているとしたら、トータルで見ると±0だよね、という考え方。

石油などの化石燃料も昔は植物であったので、同じ考え方が出来るともいえるが、化石燃料は何億年も前に出来たものであると考え、これはカーボンニュートラルではないとされている。

(同じような理由で化石燃料はバイオマスからは除かれている)

[c] 各企業のバイオプラスチックへの取組

● セブン&アイHLDGS.
2015年度から、セブンイレブン店舗のチルドケースで販売している「サラダカップ容器」を、石油由来の「PET容器」から「リサイクルPET」や「バイオマスPET」を配合した容器へ切り替えた。

イトーヨーカドーでも、カットフルーツ用の容器や弁当容器に、原料の一部に植物性由来の原料が使用されているバイオプラスチック容器を使用している。

● レゴ
レゴグループは、ブロック玩具の素材をABS樹脂からバイオ由来の素材に順次切り替えていき、2030年までに主要商品とパッケージにサステナブルな素材を用いる目標を掲げている。

サステナブルなものの割合は現在のところ全商品の1~2%に留まっているが、レゴグループは目標達成のために、2015年に10憶DKK(約1,760憶円)を投じ、100人以上のスタッフを雇用の上、サステナブル・マテリアルズ・センターを設立し、今後さらに力を入れて新素材の研究・開発を続けていく計画をたてている。

⚠ ここに注意
生分解性のあるなしにかかわらず、バイオプラスチックを普及させるためには、普通のプラスチックとは別に回収してリサイクルするシステムを整える必要がある。

また、バイオプラスチックは現在、農業資材や使い捨ての食品容器、ペットボトル、レジ袋、ティーパックなどに使われていますが、バイオ素材なら捨てても良いという考え方を助長してしまうことも問題視されています。

(3)zero-waste運動

第3章でも述べたように、スロベニアの首都リュブリャナのようにごみをなるべく出さないように暮らす「zero-waste(ゼロ・ウェイスト)」の取組が、世界各地で始まっています。

ゼロ・ウェイストは、焼却や埋め立てに頼らず、再利用や資源化によってごみをなくす政策として、イギリスの産業経済学者マレーが最初に提唱したもので、1996年にオーストラリアの首都キャンベラが、世界で初めてゼロ・ウェイストを宣言したのに続き、ニュージーランドの半数以上の都市・アメリカのサンフランシスコ・ヨーロッパなどの都市に拡大していきました。

また、個人レベルでもサンフランシスコ近郊に住むフランス人女性のベア・ジョンソンは、家族4人で1年に出すごみの量がわずかガラス瓶1本分(1L)という「ごみゼロ生活」を紹介する「ゼロ・ウェイスト・ホーム」というブログが世界的な注目を浴び、2013年に書籍化され、各国で翻訳されています。

●日本での取り組み
日本では、徳島県上勝町が2003年に国内初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表し、生ゴミの堆肥化・45の分別など、地域ぐるみの地道な取り組みによって2016年には約81%のリサイクル率を達成しています。

上勝町にはごみ回収車は走っておらず、約1,500人の町民が各自でごみを分別し、自家用車で町内唯一のゴミステーションまで持ち込むとのこと。

手間はかかりますが、ゴミステーションは年末年始以外休まないので、どんなごみも自分の都合のいい時に出せるというメリットもあるといいます。

また、運搬支援という、車に乗れないなど、自分でごみを運べない人のために、無料でごみを家まで回収に来てくれる仕組みもあります。

上勝町の分別項目は、13種類45分別に分かれています。

「45分別」という事は、各家庭にゴミ箱を45個用意しなくてはいけないのかと思いますが、そうではないようで、多くの人が10個前後のごみ箱を使っているようです。

そもそも全町民が45分別を完璧に覚えるのは難しいため、あまり出ないもの・分別がわからないものはひとまとめにしておいて、ゴミステーションに常駐しているスタッフと共に振り分けていくようです。

また、自分では使わなくなったけど、まだ使える“もったいない”物は、ゼロ・ウェイストセンター内にある「くるくるショップ」に持ち込むことができます。(上記「1,まだ使えるもの」)

ショップ内の展示品は、誰でも無料で持ち帰り可能で、ごみ出しのついでに、何か掘り出し物はないかと立ち寄るのも楽しみの一つだといいます。

「無人のゴミステーション」は日本各地でありますが、上勝町がここまでゼロ・ウェイストを継続できている大きな理由は、ゴミステーションに常駐のスタッフがいること、基本的に住民が直接ゴミステーションへ来ること、という2つに関係しているといいます。

ゴミステーションがあることで、住民とスタッフはもちろん、住民同士のコミュニケーションの場所となります。

上勝町の住民にとってゴミステーションは「ごみを捨てに来るための場所」だけではなく、「おしゃべりをする場所」であり、くるくるショップで面白いものを探す「楽しみを見つけるための場所」でもあります。

そのような仕組みを確立・浸透させた事が、上勝町の成功の秘訣だともいえます。

上勝町は新たな活動にも力を入れており、2005年にはNPO法人の「ゼロ・ウェイストアカデミー」を立ち上げ、2020年には、新たなゴミステーションとして複合施設「WHY」をオープンしました。

WHYは、ゴミの分別所&ストックヤード・くるくるショップと併設して、実際に45分別を体験する宿泊施設や、消費者・販売者・生産者に向けたセミナールーム、ゼロ・ウェイスト運動の発信・研究・教育の機能を併せ持ち、また町民の出会いや語り合いを作り出すコミュニティセンター&オフィスで、ゴミステーションの定義を変える施設として注目されています。

※なぜ、上勝町が進んでごみ問題へ取り組んだのか?
もともと林業の町だった上勝町は、伐採時に出る枝などを地面に掘って焼却していたこともあり、ごみ処理も野焼きが主でした。
県からの指導で野焼きを続けられなくなったとき、すでに過疎・高齢化に直面していた上勝町は新しい焼却炉を買う財政的な余裕もなかったといいます。
そこで上勝町は、焼却炉を使わない方法を模索した結果、「ゼロ・ウェイスト」に出会ったようです。

(4)アップサイクル

前章で述べたように、リサイクルはもとの製品より価値や価格が下がってしまうダウンサイクルが主流です。
それに対して、よりよいものに作り変え、付加価値を高めるアップサイクルへの取り組みが各地で行われています。

[a] アディダス

アディダスは、Parley For The Ocean(環境保護団体)と共同で、海沿いの地域で回収したプラスチック廃棄物をアップサイクルし、付加価値を付けたシューズやウェアを開発。(ADIDAS × PARLEY)

このコレクションは回収したプラスチック廃棄物を最低75%使用して作られているとの事です。
2019年にはアップサイクルした素材を採用したシューズを1100万足製造
2024年までに、バージンボリエステル(未使用ポリエステル)を完全に排除すること、つまりリサイクルポリエステルを100%製品に使用することを目標としています。

[b] プラダ

アクアフィル(繊維メーカー)が開発した、新しい再生ナイロン「エコニール」を用いる新しいプロジェクト「Re-Nylon」をスタートさせています。

世界中の海から回収されたプラスチック、漁網、埋め立てごみ、繊維くずを再利用して作られた再生ナイロンのみを使用
また、この素材は、正しい処理を行えば新しいナイロンへと生まれ変わるとの事なので、「真の循環型ラグジュアリーとして品質を損なうことなく無限に再生できる素材である」とプラダは発信しており、製品のナイロン素材をすべてエコニールに切り替えると発表しています。

[c] プレシャス・プラスチック

個人発の取り組みとして注目を集めているのが、「プレシャス・プラスチック」プロジェクトです。
これはプラごみを自分で集め、手作りマシンで加工し、カラフルな小物やタイルを作るというものです。
「廃材で作った机」のように「プラごみで作ったコースター」など、プラごみでDIYが行える仕組みと考えてもらえればわかりやすいかと思います。

考案者のデイブ・ハッケンス(オランダ)はマシンの作り方・プラごみの加工方法などのノウハウをすべてウェブ上(http://preciousplastic.com/)で無料公開しており、マテリアルリサイクルが小スペース・低コストで行えるという事で、今注目されています。

※マテリアルリサイクル
廃プラスチックを原料にして新しい製品をつくるリサイクル

本日は以上です。
次回で「さいごに」なります。

またお会いいたしましょう。
さようなら。

有本開発株式会社 COO 有本 康充

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