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プラスチック汚染とは 第3章「世界の現状」

第3章「世界の現状」

(1)先進国によるプラごみの輸出

プラスチックを自国で作るには、石油プラントの建設が必要です。
ただそれよりもプラごみを輸入して再生した方が効率が良いため、1990年代以降、アジアやアフリカの一部の国々は、欧米や日本から資源として、プラごみを輸入し続けてきました。

なかでも中国はプラごみの輸入大国で、1992年から2016年までのプラごみの全世界輸入量のうち、45%を中国が占めていたといいます。

2016年のみのデータを見てみましょう。
1年間の中国のプラごみ輸入量は713万トン

日本をはじめ、先進国はプラごみを輸出に頼っている(押し付けている??)事がわかります。
※タイは先進国から輸入したごみの一部を再度中国に輸出した結果、上位になっていると思われます

しかし、輸入されたごみの中には、

  • 汚れているもの
  • 分別されていないもの

など、そのままではリサイクルできないものも多く含まれていたといいます。

リサイクルを行うために、洗ったり、分別し直したりする作業は基本的には人の手で行う作業になりますが、量が多すぎて放置されるものも多かったようです。
結果、輸入したものの処理しきれなくなってしまったプラごみは…

  • 野焼きにされた結果、有害物質を発生させる
  • 川に流れ出て海洋汚染の原因となる

など、深刻な状況が何年も続いていました。

そのようの状況に加え、急激な経済成長で自国のプラごみへの対処に追われ出したこともあり、中国は2018年から廃棄物の輸入規制に乗り出し、2021年からはすべての廃棄物の輸入を禁止しています。

しかし、
一部の地方では環境保護より経済発展を優先する考えが根強く、利益のために海外ごみの密輸に走る悪質企業も絶えず、規制後も密輸不正輸入が横行しています。

一方、
中国の規制によるしわ寄せで、プラごみ輸入が増えた東南アジア諸国では…

  • 多くのリサイクル工場が環境規制を守らないまま稼働
  • 違法工場が密集する地域で水質汚染の深刻化

など、様々な問題がでてきていました。

これに伴い、東南アジア諸国も次々と輸入禁止を発表しています。
また、「輸入された廃プラスチック」による環境影響の問題を受けて、2019年の国際会議での決定により「リサイクルに適さない汚れたプラスチックごみ」は、国外へ輸出する事ができなくなりました。
(輸入国の許可があれば可能)

これにより、今までプラごみを輸出に頼っていた先進国は、自国でのプラごみの処理を行わなくてはいけなくなり、対応を迫られています。

※ 日本の場合
日本ではプラごみの約14%を輸出に頼っている状況でした。
自国での処理方法として今注目されているのが、RPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)やフラフと呼ばれる燃料です。

両者ともに、廃プラや紙くずといった廃棄物を固めてつくられた燃料で、その発熱量や価格の低さ、石炭と比べて二酸化炭素の排出量が少ないことから、石炭の代替燃料として注目されており、大手製紙会社や鉄鋼会社などで既に利用されているといいます。

(2)レジ袋・ポリ袋規制

全世界で消費されているレジ袋は、年間1~5兆枚で、日本だけでも年間300~500億枚も使用されています。
日本ではレジ袋の有料化が2020年に始まりましたが、世界の国々はどのような状況なのでしょうか。

【世界のレジ袋規制状況は?】
2019年の時点で120か国以上の国がレジ袋の禁止・有料化を実施していると言われています。

[a] アメリカ

一人あたりの容器包装プラごみ世界第1位のアメリカは、レジ袋の取り扱いについての対応は州によって異なっています。
リサイクルの実施に重点を置いている州もあれば、無料のレジ袋配布を禁止、もしくは有料制にしている州もあります。

●カリフォルニア州
全米で初めてレジ袋の配布を禁止。
食料品店や薬局では2015年、コンビニや酒店では2016年からレジ袋の規制を行っている。

●ニューヨーク州
2020年より、小売店や食料品店などで使い捨てプラスチック製レジ袋の使用を禁止している。

他にも、ワシントンDC・ハワイ州なども条例を制定・施行していますが、まだまだ規制は一部の地域に限られている現状です。

[b] ヨーロッパ

ヨーロッパではEUが加盟国に対して取るべき措置を取り決め、2015年に指令として発布しました。
具体的には、軽量のプラスチック製レジ袋の1人あたりの年間使用量を2019年までに90枚以下、2025年末までに40枚以下に削減することが求められています。

●イギリス
2008年にスーパーや小売店に対して、使い捨てのプラスチックを原料としたレジ袋の有料化を義務付ける方針を発表。

●フランス
2005年の審議において、生分解性プラスチック以外のレジ袋の販売および配布の禁止を2010年以降実施する事を決定。
さらに2016年には、2020年以降のレジ袋を含む使い捨てプラスチック製容器の使用を原則禁止する政令を出しています。

※生分解性プラスチック
自然界に存在する微生物の働きで、水と二酸化炭素に分解され自然界へと循環するプラスチックのこと。(詳しくは第4章にて)

●スペイン
オンライン販売や宅配を含み、商品の販売時点で消費者に提供されるプラスチックを原料とした袋に関しては、すべて有料化とすることを2018年に制定。

●オランダ
プラスチック製のレジ袋を含むすべての袋を有料化することが2016年に決定。

[c] 規制が厳しい

アジア・アフリカなどの発展途上国は、「有料化」ではなくより厳しい禁止措置をとる国が多くなっています。

その理由は、途上国はごみ処理場の設備が充分ではなく、

  • 空き地に投げ捨てられたごみの山が崩落して、死亡者が出る事故が発生
  • 羊や牛が放置されているごみを食べてしまい死亡する

など様々な問題が起こっているからだと言います。

ただ、この問題を解決しようと、ごみ処理場の建設や、分別ルールの徹底を行うには時間やコストがかかってしまいます。
その結果、「ごみのもとを作らない社会をつくる方が早い」という判断をする国が多く、現在アフリカ54カ国のうち、約30カ国がレジ袋規制を導入しているとの事です。

●世界初のレジ袋禁止国
2002年、世界で初めてポリ袋使用禁止の法律を施行したのは、バングラデシュです。

Q.なぜ、いち早く取り組んだの?
1988年の大洪水の一因が、捨てられた大量のポリ袋が排水管をつまらせたことだったため、早々に法律の整備が進められたとの事です。

●世界で最も厳しいポリ袋禁止令
2017年から、ケニアではポリ袋が法的に禁止となりました。
製造・販売・輸入は当然ながら、使用した場合も最長で4年の禁固刑か最高4万ドルの罰金刑となる可能性があり「世界で最も厳しいポリ袋禁止令」といわれています。

Q.なぜこんなに厳しいの?
ケニアの首都ナイロビでは、常に路上にビニール袋が散乱しており、その結果、排水口に詰まり水が流れなくなったり、飼育されていた肉牛の胃の中から大量のビニール袋が検出されるなど、市民の食にもリスクが及んだりと、常にごみ問題に悩まされていたといいます。
以前よりその対策には取り組んでおり、2007年には製造業者や輸入業者に対して、厚さ30ミクロン以上のポリ袋のみ使用可能という制限を設けました。
その4年後も、厚さ制限をよりリサイクルしやすいと言われる60ミクロンに引き上げました。
しかし、「一般市民がポリ袋の厚さの違いを判別できない」という理由で失敗に終わり、2017年の禁止令の施行に至ったといいます。

(3)世界のリサイクル事情

世界のごみ全般のリサイクル率を比較してみると、他の国々と比べ、ヨーロッパ諸国が極めて高い事がわかります。

特に、ドイツスウェーデンは、環境先進国として知られ、早くからリサイクルに取り組んでいます。
また最近では、スロベニアの取り組みにも注目が集まっています。
それぞれの具体的な取り組みを紹介していきましょう。

[a] ドイツ

ドイツでは、街のあちこちにごみ箱があったり、幼稚園に入る前からゴミの分別や再利用についてのしつけがされていたり、さらにデポジット制・緑のマークなど様々な取り組みが定着しています。

●デポジット制
デポジットとはその容器の代金の事で、消費者は飲み物を買うときに容器代を上乗せして払います。
例えばペットボトルには25セントのデポジットが上乗せされていますが、飲み終えた後にその容器をお店などに持っていけば、そのお金が返却されるというシステムです。

●緑のマーク
ドイツは1991年に産業界・包装関連業界・流通業界に対し、パッケージ類の回収および再利用を義務付けました。
しかし、実際に小売店や製造元が回収・再生作業を行うのは難しい事もあり、その代行業者として「デュアル・システム・ドイチュラント(DSD)」社が設立されました。

※ DSDの回収の流れ

・「緑のマーク」というデザインを作成、商標化する
・生産者(メーカー)に、このマークを対象商品に印刷させる
・商品を購入した消費者から、そのごみを無料で回収する
・生産者(メーカー)からライセンス料を徴収する

表向きには無料で回収しているように見えますが、ライセンス料を徴収する事で経営を成り立たせています。
また、ライセンス料は生産者側が商品価格に上乗せしているので、実際は消費者が負担している格好となっていますが、その値段は1人当たり月額で約1.9ユーロ(約240円)となっています。

Q.デュアル・システムとは?
DSDの社名にもなっている「デュアル・システム」とは、これまで「地方自治体による処理」という1つの選択肢しかなかったごみ回収に、新たに「企業による処理」を加え、2つのごみ回収を平行して行うシステムです。
自治体によるごみの回収は有料ですが、企業が行う緑のマークの回収は無料です。
このシステムの良い点は、緑のマークによる分別をすれば、ごみの有効利用に貢献できるだけでなく、自治体に有料で回収されるごみを減らすことができ、消費者にもメリットがある点です。

商品を入れている包装材や容器の回収・再生を促す「緑のマーク」は、ごみリサイクルのシンボルとして各国の手本にもなっています。

[b] スウェーデン

「廃プラスチックについて vol.3」にて日本のサーマルリサイクル率の高さについての投稿を行いましたが、同じようにサーマルリサイクル率が高いのがスウェーデンです。
日本のサーマルリサイクル率は約58%、スウェーデンのサーマルリサイクル率は約53%となっていますが、それぞれの中身は少し異なるようです。

※ サーマルリサイクル
ごみを単純に焼却処理せず、焼却の際に発生する熱エネルギーを回収・利用すること

●日本の場合
日本では、ごみの排出量が多く、燃やすことが第一優先になっており、発電は二の次になっています。

そもそも現行の焼却炉はダイオキシン対策を第一の目的に約20年前に建設されたものであり、サーマルリサイクルを目的につくられたものではありません。
したがって、エネルギー効率の低いものや小規模発電所が多く、またごみ発電によるエネルギー利用も主に温水プールなどの公共施設に限られています。

●スウェーデンの場合
スウェーデンでは、ごみの輸入や廃棄は民間企業が行いますが、その過程で発生した熱エネルギーは、国が管轄するインフラを通して、各家庭に供給されます。

スウェーデンは1904年よりごみ発電始めたとされており、100年以上かけて確立されたネットワークを利用し、廃棄施設の熱エネルギーを最大限に活用できているとのことです。
具体的には、ごみ発電によりスウェーデン全体の地域暖房用熱エネルギーの20%(25万人の家庭の1年間に必要な電気)を生産しています。

また、スウェーデンではなによりも環境を優先する文化が国民の意識下にしっかりと根付いており、環境教育が4才から始まる義務教育になっています。
国としての制度も整備されており、もともとごみの排出量が少ない国である上に、上記のようにごみをエネルギーに変換するしっかりとした技術・システムがあります。
その結果、ごみの排出量よりごみ処理能力が上回っている状況が続いており、自国だけでは発電用のごみが足らず、周辺国からごみを輸入するほどにまでなっています。

[c] スロベニア

スロベニアの首都リュブリャナは、以前よりごみ問題への取り組みを行っていましたが、2014年に欧州で初めて「zero-waste」を目標に設定した事により、さらに注目されるようになりました。

※zero-waste(ゼロ・ウェイスト)
「ごみをゼロにする」ことを目標にできるだけ廃棄物を減らそうとすることで、「ごみをどう処理するか」ではなく「ごみ自体を出さない社会を目指すこと」を行う活動

リュブリャナ市では、色とりどりの四角いボックスが街なかでよく見かけられます。
これは2008年に中心街のゴミ収集プロセスの効率化及び景観向上のために設置されたゴミ箱です。
また、2011年よりゴミ処理プロセス及びインフラ整備の近代化を加速させた結果、現在では約60%のゴミの分別回収率となっています。(EU平均は約20%)

また、リュブリャナ市には、スロベニア全体の3分の1のゴミを加工処理する大型ゴミ処理センターも整備されており、先端技術を使用したリサイクルが可能であるとのことです。
その結果、2019年には1人あたり年間ごみ排出量を115kg(日本は約350kg)に抑えています。

市民へ分別を徹底させ、ごみの大部分をリサイクルする事で廃棄量を大幅に削減することが可能である事を示したリュブリャナは、2016年に「欧州グリーン首都」賞を受賞しており、他の都市のモデルとなるとされています。

[d] アメリカ

世界有数のごみ排出国のアメリカを中心にカナダ・ロシア・中国などの国土の広い国は、リサイクル率が低く埋め立てが半分以上を占めている国が多い現状です。

レジ袋やポリ袋の規制をカリフォルニア州・ニューヨーク州・ワシントンDC・ハワイ州などが進めるなど、ごみ政策に積極的に取り組む州や都市は徐々に増えており、特にカリフォルニア州では全米屈指のリサイクル率50%を達成しているといいます。
しかし、アメリカ全体で見てみると、まだまだ埋め立てに頼っている現状が続いており、2015年のデータによるとのプラスチックのリサイクル率はわずか9%程度にとどまっています。

また、そこにきて中国のプラごみ輸入禁止という発表があり、今まで中国に売っていた大量のプラごみを自国でリサイクルしなければならなくなり、リサイクル費用が高騰しています。
買い手が少ないため、リサイクル業者はその分減った利益を埋め合わせようと、自治体への請求額を増やしており、自治体の中には、業者に支払ったリサイクル費が4倍に跳ね上がった市もあるといいます。
このように現在のアメリカではリサイクル事業が行き詰まりをみせています。

※ 埋め立てのリスク
当然、土地が広いから埋めてしまえば良いというワケではなく、ごみを埋め立てた後にごみに含まれていたものやごみが分解したものが、染みこんだ雨水に溶け込んで汚水が発生したり、臭気やガスが発生したり、有害物質が見つかるリスクがあったりします。

埋め立ては世界中どこにでもあるごみの処分方法で、埋め立てたごみが環境に影響を与えなくなる時間・適切な処理方法が日夜研究されています。

ただ、生物学や化学や物理学がかかわる複雑な現象であること、数十年から数百年かかる現象であるため実験しにくいこと、また、ごみの種類や処分場の作り方、さらに処分場がさらされる気候は、国ごとに千差万別なので、世界で共通する理論を作りにくい分野となっています。

(4) 進まないリサイクル

第1章で述べたように、全世界のプラスチックのリサイクル率はわずか9%です。
リサイクルがなかなか進まない理由はさまざまです。

[a] アップサイクル・ダウンサイクル

技術の進歩で様々なプラスチックを再生する事が可能になりました。
ただし今の技術では、再生されたプラスチックは「質の落ちたもの」になる事が多く、1,2回リサイクルされた後に、結局は処分されてしまう事がリサイクルが進まない原因の一つとされています。

このようなリサイクルを「ダウンサイクル」といいます。
それに対して、素材の品質や機能を低下させることなく、何度もリサイクルする事を「アップサイクル」といいます。

(例)ペットボトル
ペットボトルのリサイクルは、現状では多くがぬいぐるみの中綿やフリースなどに使われるポリエステル繊維に変わるダウンサイクルとなっています。
ポリエステル繊維となってしまった(質の落ちた)ものは、そこからさらにリサイクルされることはなく処分されてしまいます。
また第1章で述べたように、ポリエステル繊維の衣服に生まれ変わっても、洗濯されれば一部はマイクロプラスチックとなり、下水を流れ、海に流れてしまいます。

リサイクルされたペットボトルが再びペットボトルに戻ること(ボトル to ボトル)がアップサイクルとなります。
ただ、コカ・コーラでも2018年に製造したペットボトルのうち「ボトルtoボトル」の技術を使用して製造されたペットボトルは約17%にすぎません。
(コカ・コーラは、2022年までに50%以上、2030年には90%まで高める目標を掲げています)そのパーセンテージが低い原因は…

1. コストがかかる
2. 現在の技術ではリサイクルの過程でどうしても不純物が混ざるため、透明なボトルから再び透明なボトルを作ることが難しい

などがあると考えられます。

[b] 多種多様

今まで100種類近くのプラスチックが開発され、現在約70種のプラスチックが使われているといわれています。
リサイクルを行うためには、同じ種類のプラスチックを集める必要があります。
海外では分別をしやすくするように製品に1番から7番の識別コードを表示させていますが、それも国によって様々で、結局手作業で行わなくてはならないのが現状です。

[c] 複合樹脂

ただでさえ種類が多いプラスチックですが、それを複数組み合わせて作るプラスチックも多く使用されている事が、さらにリサイクルを難しくしています。
例えば、食品包装用のフィルムは、「空気遮断性のあるナイロン+防湿性のあるポリエチレン」など、中に入れる食品に応じて異なる特性をもつ素材が何層にも重ねられています。
こうしたものは、単一のモノに比べてリサイクルしにくく、またそこに添加剤なども使用されていると、リサイクルはさらに難しくなります。

本日は以上です。
次回は「プラスチック生活からの脱却」について投稿を行う予定です。

またお会いいたしましょう。
さようなら。

有本開発株式会社 COO 有本 康充

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